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第24回 齋藤秀雄メモリアル基金賞

公益財団法人ソニー音楽財団は、第24回(2025年度) 齋藤秀雄メモリアル基金賞 チェロ部門受賞者を 山澤 慧(やまざわ・けい)氏、指揮部門受賞者を熊倉 優(くまくら・まさる)氏に決定いたしました。

賞について

受賞者
山澤 慧(チェロ)
熊倉 優(指揮)
永世名誉顧問
小澤征爾 氏(指揮者・故人)
選考委員

<選考委員長>
水野道訓(ソニー音楽財団理事長)

<永久選考委員>
堤 剛 氏(チェリスト)

<任期制選考委員>
高関 健 氏(指揮者)
東条碩夫 氏(音楽評論家)
吉田純子 氏(朝日新聞 編集委員)


賞金 当該年毎に1人500万円(総額1,000万円)

贈賞の言葉

永久選考委員 堤 剛
山澤 慧 氏へ「贈賞にあたり」
永久選考委員 堤 剛

最近の山澤さんの活動、活躍振りを見ていると20世紀後半に活躍されたドイツ人チェリスト、ジークフリート・パルム氏を思い出します。氏は素晴らしいチェリストとしての演奏活動に加え、現代チェロ作品のパイオニアとして大きな足跡を残されました。クセナキスの「絶対に演奏不可能」と言われた作品を見事に演奏しただけでなく、芸術作品として立派に花を咲かせたのです。次々に新しいテクニックを開拓し、チェロの楽器としての可能性を常に追求して多くの作曲家達に刺激を与え、レパートリーを拡げる事に貢献をされました。その恩恵たるや真に大きなものがあります。

 

山澤さんはパルム氏が切り拓いたチャレンジ精神を引き継がれているように思われます。常に新しい可能性を追求され、今迄誰も考えつかなかったような技術を編み出し、そのためのクラスまで開かれています。でも山澤さんの凄い所は、その真新しいとも云えるテクニックを完全にマスターして自分のものとし、それを演奏の中に生かして自分自身の言葉として表現されていることです。ですからそこには目新しさだけでなく、一つの芸術品が皆の前に提供されているのです。例えばどのような種類の音色を作り上げてもそれが全く違和感がなく、美しささえ感じさせて呉れます。

 

しかも積極的な作品委嘱などを通じてチェロのレパートリーの拡大に寄与されているのです。特に邦人作曲家の作品に対する山澤さんの暖かい共感性、深い理解度、並外れた洞察力にはただただ感心するのみです。それ故作曲家からの信頼度は真に厚く、大きな刺激となって新しい優れた作品がどんどん生まれてきています。私はその点に関して故ロストロポーヴィチ氏の言葉を忘れることが出来ません。氏は「どんなに作品が難しく多大な苦労、大変な練習を強いられようともその作品を書いてくれた作曲家に感謝しなくてはなりません、チェロの可能性とレパートリーの拡充に大きな貢献をされているのですから」と仰っておられました。

 

でも山澤さんは現代作品に特化されている訳ではありません。バッハを始めとするスタンダードレパートリーの演奏にも実力を余すところなく発揮され、幅広さを備えたチェリストとしての活動を立派に続けておられます。「お見事!」という他にありません。加えて藝大フィルハーモア管弦楽団の首席奏者や千葉交響楽団の契約首席奏者として重責を果たし、アンサンブル奏者としての活動も立派にされておられます。真に頼もしく感じると同時にこれからもっともっと種々の可能性を私達に披露してくれることを期待し、楽しみにしております。

選考委員 高関 健/東条 碩夫/ 吉田 純子
熊倉 優 氏へ「贈賞にあたり」
選考委員 高関 健/東条 碩夫/ 吉田 純子

指揮界でも近年、才能あふれる若い世代が続々登場、国内だけでなく国際的に活躍しておられる様子を拝見して、とても頼もしく感じています。その中でも熊倉優さんのご活躍は群を抜いているとして、この度の贈賞となったことを心から喜ばしく思います。

 

熊倉さんの指揮を詳しく拝見した2018年の東京国際指揮者コンクールでの印象は鮮やかでした。音楽的にとても自然で、動きもわかりやすく、内に持っているイメージがオーケストラによく伝わっていく。素晴らしいと思いました。その後テレビ放送でイザベル・ファウストさんの独奏、N響を指揮されてシマノフスキの第1ヴァイオリン協奏曲の演奏を拝見しましたが、指揮者にとっても難曲であるこの協奏曲を、オーケストラをよくコントロールしながら、ソロに誠実に寄り添いながら進めていかれる様子にとても感銘を受けました。その姿勢は小澤さん、秋山さん、飯守さんから連なる齋藤先生の系譜を最も正しく受け継いでいらっしゃると深く感じます。その意味でも齋藤秀雄メモリアル基金賞を受賞されるにふさわしいと考えます。

 

熊倉さんはその後ドイツに渡られ、現在はハノーヴァー州立歌劇場において第2カペルマイスターの重責を担い、今シーズンも多くの演目で45公演近くを指揮されるそうです。日本国内でのご出演がまだ少ないのはドイツでの大活躍のためと想像しますが、テレビなどで時々拝見するコメントや曲目解説での語り口も実に的確です。今後オペラとシンフォニーと両方の分野で、やがては音楽界全体を牽引するスケールの大きな演奏活動が期待されます。熊倉優さんのご活躍を心より応援致します。

受賞の言葉

山澤 慧
山澤 慧

この度は、齋藤秀雄メモリアル基金賞にご選出くださり、誠にありがとうございます。
身に余る光栄ではございますが、これまで自分の信念を大切にしながら、地道に音楽活動を続けてきた歩みを評価していただけたものと受け止め、心より感謝申し上げます。

 

私の人生にとって幸運だったことは、齋藤秀雄先生が創設された「子どものための音楽教室」において音楽の基礎を学ぶ機会を得たこと、そして何より、自分の専門の楽器としてチェロを選んだことです。はじめはひばりヶ丘に、その後は仙川に通ったことを懐かしく思い出します。そこで学んだ、チェロでフレーズを弾く前に自分の声で歌ってみることや、アクセントのさまざまな形などは、齋藤先生が常におっしゃっていたことだったのだと、後になって気づきました。

 

その後、藝高、藝大へと進み、学生として最後の二年間は、齋藤先生の愛弟子であった山崎伸子先生に学びました。山崎先生からは、チェロのことのみならず、演奏家として、また人間としての在り方についても多くのことを学んだように感じています。身体の使い方について悩んでいた私に対し、さまざまな試行錯誤を重ねながら向き合ってくださったその姿勢は、齋藤先生の在り方と重なるものを感じました。

 

卒業後、自分はどのようなチェリストになりたいのかを、深く考えるようになりました。
日本現代音楽協会主催の現代音楽演奏コンクール“〈競楽”〉で優勝したことを一つのきっかけとして、近現代に書かれた作品の演奏に積極的に取り組むことを決意しました。以来、20世紀以降に書かれた無伴奏チェロ作品を中心としたリサイタルや、邦人作曲家による作品を集めたリサイタルを、自主的に続けてまいりました。
演奏活動を続ける中で、一年間フランクフルトに滞在し、現代音楽アンサンブル「アンサンブル・モデルン」のチェリストに学ぶ機会を得ました。しかし振り返ってみると、そこで得たことも、これまでに教わってきたことと本質的には地続きのものでした。すなわち、古典も「現代音楽」も変わらず、一つ一つの音に意味を持たせること。それは、齋藤先生の理念に通ずるものだと感じています。

 

齋藤先生が亡くなられる年、広島での講義において、先生は「人間は意志をもって、自分の特徴を生かすことを考えねばならない」とおっしゃいました。自分がもしチェロ界に貢献できることがあるとすれば、ロストロポーヴィチ氏や堤剛先生といった先人が委嘱し、初演してきた作品を演奏し続けること、そして自分自身もその歴史につながる存在として作曲家に委嘱を行い、100年後のレパートリーとなる作品を生み出す手助けをすることだと考えています。
齋藤先生には到底及びませんが、これからも熱意をもって音楽に取り組んでいきたいと思います。

熊倉 優
熊倉 優

この度は齋藤秀雄メモリアル基金賞を受賞させて頂くことになり、大変光栄に思うとともに、まだまだ駆け出しである自分の活動に注目し、賞を与えて下さったソニー音楽財団の皆様、選考委員の皆様に心より御礼申し上げます。また、私がこの身に余る賞を頂けたのは、直接教えをいただいた先生方はもちろんのこと、様々な現場でご一緒した皆様、いつも支えてくださっているマネージメント、そして家族のおかげです。心から感謝申し上げます。

 

桐朋学園で学んだ自分にとって、齋藤先生は、偉大な先輩方を通じて逸話を耳にしたり、お名前を聞くだけでなんだか身が引き締まるような存在でした。指揮者という存在にただ漠然とした憧れを抱いていた自分が大学に入り、齋藤先生の「指揮法教程」を通じて指揮を学び始めたとき、指揮にはこんなに色々な技術があるのかと感動すると同時に、言語化された技術を理解し自分のものにする難しさを実感しました。そして、実際にオーケストラの前に立つ以前に、指揮者の道を志す厳しさを感じていたことを覚えています。

 

初めてプロの現場に入らせていただいたのはちょうど10年前、2016年から3年間N H K交響楽団のアシスタントとして多くのリハーサルを間近で見させて頂き、オーケストラというものがどう成り立っているのかも様々な側面から教えて頂きました。指揮者としての経験も下積みも全くない自分にそのような貴重な機会を与えて下さったN H K交響楽団の皆様には本当に感謝していますし、そこでの経験がなかったら今の自分はないと言えます。その現場でたくさんの素晴らしい指揮者からも多くのことを学ばせて頂きましたが、それでも齋藤メソッドとして学んだことは常に頭の中の引き出しにあり、自分自身が今指揮者として指揮台の上に立っている際にそれによって助けられていることが幾度となくあると感じています。

 

現在ドイツの劇場に活動の拠点を移し5年目になり、オペラの分野を中心に日々新しい経験を積ませていただいています。まだまだ目の前のことに必死な毎日で自分のことで精一杯ですが、いつかは音楽芸術文化の発展に少しでも寄与できる音楽家になれたらと思っております。そのために、この賞に恥じぬよう一歩一歩これからも精進して参ります。

プロフィール

山澤 慧
山澤 慧

東京藝術大学附属高校、同大学を経て、同大学院修了。大学卒業時に同声会賞受賞、大学院修了時に大学院アカンサス賞受賞。

2012年、第10回ビバホールチェロコンクール第3位、第17回コンセールマロニエ21弦楽器部門第2位。2013年、第2回秋吉台音楽コンクールチェロ部門第1位。 2014年、第11回現代音楽演奏コンクール“競楽XI”第1位、第24回朝日現代音楽賞受賞。

第1回(2013年)宗次エンジェル基金/公益社団法人日本演奏連盟 新進演奏家国内奨学生。

音川健二、藤沢俊樹、河野文昭、西谷牧人、鈴木秀美、山崎伸子の各氏に師事。

2017年には文化庁新進芸術家海外研修員として、フランクフルトにてアンサンブル・モデルンのチェロ奏者、ミヒャエル・カスパー氏のもと研鑽を積んだ。

東京都町田市出身。藝大フィルハーモニア管弦楽団首席チェロ奏者、千葉交響楽団契約首席チェロ奏者。

熊倉 優
熊倉 優

1992年東京生まれ。16歳で作曲を始め、大学入学時より指揮を学ぶ。桐朋学園大学(作曲専攻)卒業後、同研究科修了。指揮を梅田俊明氏、下野竜也氏に師事。第18回東京国際音楽コンクール<指揮>で第3位受賞。

2016年から2019年までNHK交響楽団の首席指揮者パーヴォ・ヤルヴィ氏、および同団のアシスタントを務め、定期公演などに携わる。2020年、新型コロナの影響による活動休止後に再開されたN響「希望のコンサート」で指揮し注目を集める。2021年よりドイツを拠点とし、ハンブルク州立歌劇場でケント・ナガノ氏のアシスタントを務める傍ら、「魔笛」などを指揮。2023年8月よりハノーファー州立歌劇場第2カペルマイスターに就任、25/26シーズンは、「トゥーランドット」と「イル・トロヴァトーレ」の2つのプレミエの他、「オテッロ」、「ドン・ジョヴァンニ」、「ヘンゼルとグレーテル」、「フィガロの結婚」、「トスカ」を指揮する。