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2019年09月26日

<10代のためのプレミアム・コンサート>シリーズ パーヴォ・ヤルヴィ&N響 レポートアップ!

2019年8月、9月に、Bunkamura30周年記念公演として、ベートーヴェン作曲のオペラ「フィデリオ」が上演され、大きな話題を呼びました。その関連プログラムとして、ソニー音楽財団では10代を対象に、鑑賞・特別体験プログラムを実施。多くの子どもたちが参加したプログラムの模様を、音楽ライター室田尚子さんのレポートとともにお伝えします。

 

世界的指揮者パーヴォ・ヤルヴィさんと、彼が首席指揮者を務めるNHK交響楽団による、オペラを演奏会形式で上演する「オペラ・コンチェルタンテ・シリーズ」。昨年の『ウエスト・サイド・ストーリー』に続き第2弾となる今年は、来年生誕250周年を迎えるベートーヴェンが残した唯一のオペラ『フィデリオ』が上演されました。夫婦の愛の素晴らしさや、公正・正義の尊さをうたうこの公演を子どもたちに楽しんでもらおうと、公益財団法人ソニー音楽財団は、10代を対象とした鑑賞・特別体験プログラムを開催しました。8月26日と27日の2日間にわたるワークショップと、9月1日の事前レクチャーに引き続いてのコンサート鑑賞からなるこのプログラムには、小学生から19歳までの約90人が参加。ベートーヴェンとはどんな作曲家なのか、「オペラ」とはどんなものなのか、コンサートホールの響きの素晴らしさ、などを実際に見て、聴いて、歌って体験しました。

 

8月26日のワークショップ①は、ベートーヴェンの交響曲第9番、通称「第九」の第4楽章「よろこびの歌」を体験するプログラムです。オーチャードホール内のスペースに集まった参加者の前で、東京二期会所属の渡邊恵津子(ソプラノ)・杉山由紀(メゾ・ソプラノ)・岡本泰寛(テノール)・浅井隆仁(バリトン)の4名のオペラ歌手が素晴らしいハーモニーで「よろこびの歌」を演奏。そのあと、ひとりずつ各パートを歌うのを聴きながら、子どもたちは自分が歌いたいパートを決めます。席替えをすると、いよいよ練習スタート。事前に配られていた楽譜を見ながら、まずはドイツ語の発音の練習です。バリトンの浅井さんについて1フレーズずつリズムをつけてドイツ語の歌詞を読んでいく子どもたちの顔は、真剣そのもの。発音がわかったところで各パートに分かれてメロディの練習をします。浅井さんからは「顔を上げて、目線を遠くに向けて歌おう」というアドバイスがありました。

前半が終わったところでサプライズ・ゲストが登場。『フィデリオ』にドン・フェルナンド役で出演するバリトンの大西宇宙さんです。中学2年生の時にオーチャードホールに「第九」を聴きに来て感動したという大西さん。なんと20年を経て、今回初めてその舞台に立つことになったそうです。「将来オペラ歌手になりたい」という男の子には、「オペラは総合芸術なので、音楽だけではなく絵や映画など、いろいろなものを体験してください」とアドバイス。また「ポップスでは表現できないオペラの魅力とはなんですか?」という質問には「マイクを使わないので、生き物のように毎回毎回違う音楽が生まれてくるところ」と回答して、みんな大きく頷いていました。

さて、後半は、オーチャードホールの中に移動。まずは先生である4人のオペラ歌手がそれぞれ1曲ずつ、得意のアリアをステージ上で披露してくれました。ソプラノの渡邊さんはモーツァルト作曲『魔笛』から夜の女王のアリア「復讐の炎は地獄のようにわが心に燃え」。高音のコロラトゥーラ(細かい装飾音符のつながり)が綺麗です。メゾ・ソプラノの杉山さんはビゼー作曲『カルメン』からハバネラ「恋は野の鳥」。女性の官能的な魅力に溢れた曲。テノールの岡本さんはヴェルディ作曲『リゴレット』から「女心の歌」。「これぞテノール!」という輝かしいアリアです。そしてバリトンの浅井さんはなんと童謡「ぞうさん」を見事な深い声で歌ってくれました。

いよいよ、子どもたちがステージの上へ。まずは声を出してみて、コンサートホールでは声が遠くまで響くことを実感します。そして、ステージの後方に作られている合唱台に登り、みんなで練習した「第九」の合唱に挑戦。最初はなかなか声が遠くまで響かなかった子どもたちですが、先生からの「よろこびの歌だから喜んで歌おう!」という励ましで、見事に歌いこなすことができました。

 

8月27日のワークショップ②は、『フィデリオ』のリハーサルを見学した後、指揮者のパーヴォ・ヤルヴィさんにお話を伺いました。まず、ベートーヴェンについて語るパーヴォさん。

「私にとって、ベートーヴェンはもっとも偉大な作曲家です。それは、彼がいなかったら、そのあとの作曲家、シューマンもリヒャルト・シュトラウスもマーラーも登場しなかったといえるからです。ベートーヴェンの音楽は、ただ楽しければいいという音楽とは違って、社会と関わっていこうとする哲学があります。それは自由・平等・人間の関係性・愛といったもので、それがよく表現されている代表作が『第九』です。そして、オペラ『フィデリオ』も『第九』と同じく、自由や平等、友情といったものが描かれているのです。ぜひみなさんもベートーヴェンの作品をたくさん聴いてみてください」

ベートーヴェンに対する愛と深い理解が伝わってくるお話でした。その後は参加者からの質問タイムです。

13歳の男の子からは「13歳の頃には何に興味がありましたか?」という質問が。パーヴォさんはお父さんもネーメ・ヤルヴィさんという偉大な指揮者ですが、「音楽家の家に生まれたので、音楽が第一でした。13歳の頃は少年合唱団にも入っていましたし、ピアノやヴァイオリンのレッスンを受けていました。父についてオーケストラのリハーサルに行くのが好きでした」という音楽家らしい答えでした。

「指揮者をしていていちばん楽しかったことと、いちばん辛かったことはなんですか?」という問いかけには、「朝起きた時から夜寝るまで、偉大な作曲家の作品に囲まれて仕事ができるということは、とても楽しいことです。毎日スコアに向かって勉強しなければなりませんが、それも辛いことではなく、喜びなのです。唯一、旅から旅への毎日なので子どもになかなか会えないことが寂しいです」と、父親らしい面も見せてくれました。

「指揮棒はどのくらいで変えるのですか?」という実際的な質問もあり、「指揮棒は手の延長なので、壊れなければずっと使い続けます。持つ部分がコルクのものが好きです」という答えで、パーヴォさんの真面目なお人柄が垣間見えました。

参加者の中には、将来オーケストラに入りたいという人や、ピアニストになりたいという人がいました。そうした人たちに対してパーヴォさんは、「夢を叶えるための第一歩は、強く願うことです。そして、音楽家になるのに近道はないので、ひたすら練習し、練習しながらそれを楽しんでください。そして色々な音楽をたくさん聴いてください」というアドバイスを。その真摯な姿勢に、子どもたちも保護者も、強く胸を打たれていたようでした。

その後は、脳科学者の茂木健一郎さんが登場。最初に「音楽を聴くと脳が発達して頭が良くなる」という、お父さん・お母さんにとっては嬉しい言葉が飛び出します。脳からはドーパミンという脳を活性化させる物質が出ていますが、これは何かに感動した時や、何かが好きだなと感じた時にしか出ないそうです。そして、音楽を聴いた時にはドーパミンがたくさん出てくる。なるべくたくさんの曲を聴くと、その分たくさんのドーパミンが出て脳が活性化するので、「みんな色々な曲を聴こう!」という茂木さんの言葉に、会場は一気にリラックス・ムードに。ベートーヴェンは人生の途中で耳が聞こえなくなりますが、それでもなぜ素晴らしい曲が作れたのか、という疑問にも脳科学の立場から解説。それによると、脳は何かが欠けているとそれを他のもので補おうとする働きがあるので、耳が聞こえなくなったベートーヴェンは、人の作品に惑わされることなく、自分自身の想像力でオリジナリティのある作品を書くことができたのだろう、というお話でした。子どもたち一人一人に問いかけつつ、ベートーヴェン愛・音楽愛を熱く語る茂木さんの講座に、子どもたちも大いに盛り上がりました。

 

9月1日、オペラ『フィデリオ』の開演前に、新国立劇場合唱指揮者を務める冨平恭平さんによる事前レクチャーがありました。

まず、「オペラとは何か」という基本的なお話です。オペラは劇に似ていますが、セリフの部分が歌になっているもの。また、ミュージカルとの違いはマイクを使うか使わないか、ということが大きい。そしてオペラでは、舞台の前に作られた「オーケストラ・ピット」という大きい穴のような場所にオーケストラが入って伴奏をします。

次に、今回の「演奏会形式」について。本来オペラは舞台の上に装置を作り、歌手は衣裳をつけてメイクをしてお芝居をしますが、「演奏会形式」ではこうした装置や衣裳・メイクがありません。これは、聴き手が音楽に集中できるという利点があります。今回の上演では、歌手たちは楽譜を持たず、歌いながら演技を行うので、目でも楽しんでほしい、ということでした。

冨平さんの「合唱指揮者」という仕事については、ラーメン屋さんに例えて解説してくれました。指揮者のパーヴォさんが「麺やスープを作るラーメン屋の主人」だとすると、合唱指揮者の冨平さんは「チャーシューを作る人」。指揮者がどんな味のラーメン(音楽)を作り上げるのかを事前に学び、それに合うようにチャーシュー(合唱団)の味を整える。面白いたとえで、「合唱指揮者」のお仕事がよくわかったのではないでしょうか。

そして、オペラ『フィデリオ』について、大まかなあらすじや、聴きどころとなるアリアや重唱について解説していただき、事前レクチャーは終了。その後、子どもたちはコンサート本番を鑑賞しました。休憩をはさんで3時間弱のコンサートでしたが、皆さん集中して『フィデリオ』という作品を楽しむことができたようでした。

 

今回のプログラムは、「体験」と「講座」という2つの面から、オペラへのアプローチを試みるものでした。まず、オペラ歌手から指導を受けホールで「実際に歌ってみる」ことで、音楽を体で感じる。次に、オペラを演奏している指揮者などから「話を聴く」ことで、作品や作曲家への理解が深まる。そして、実際にオペラを作り上げる人たちの情熱や愛にも触れられたのではないでしょうか。オペラというと、特に10代の子どもたちにとってはハードルが高いものととらえられがちですが、こうして段階を踏んで理解力を深めていくことで、子どもたちとオペラとの距離がグッと近くなったと感じられました。その意味でも、大成功のプログラムだったと思います。

文・室田尚子(音楽ライター)

 

講師紹介

◎8月26日(月)

 渡邉恵津子(ソプラノ)  杉山由紀(メゾソプラノ)
   
岡本泰寛(テノール) 浅井隆仁(バリトン)
 ©Eiji Shinohara
水戸見弥子(ピアノ)

 

◎8月27日(火)​

パーヴォ・ヤルヴィ
(NHK交響楽団首席指揮者)
 茂木健一郎(脳科学者)
   
 ©Kaupo Kikkas

◎9月1日(日)

冨平恭平
(新国立劇場合唱指揮者)

以上、ベートーヴェン《フィデリオ》鑑賞・特別体験プログラムのレポートでした。

 


オーチャードホールで開催した3日間のプログラムとは別に、8月9日には東急建設株式会社の特別協力のもと、「音響体験ツアー」を実施。通常は見学ができない東急建設技術研究所(神奈川県相模原市)にお邪魔しました。研究所内の「無響室」や「残響室」に入り、声を出したり風船を割って音を出す実験を行い、音の響きの違いを体験しました。また、ホール建設時に使われていた縮尺模型を見ながら、コンサートホールの構造や仕組みについても学ぶことができました。

 

ソニー音楽財団では、今後も青少年向けのコンサートやワークショップを開催することで、子どもたちへの良質な音楽の提供、誰もが気軽にクラシック音楽を楽しめる環境づくりを行ってまいります。次回もどうぞご期待ください。

 

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<10代のためのプレミアム・コンサート>シリーズ 次回予告
スウェーデン放送合唱団 ~世界最高峰の合唱~

2019年11月27日(水)18:15開場/19:00開演
紀尾井ホール (東京都千代田区)

http://www.smf.or.jp/concert/spkids_14/

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