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インタビュー・レポート

2023年03月23日

音楽が子どもたちに伝えるものとは~「ソニー音楽財団 子ども音楽基金」採択団体による、“子どもと音楽”に関するインタビュー

 

~ヴァイオリンが育むコミュニケーションの力~

「ソニー音楽財団 子ども音楽基金」の2021年度、2022年度の助成団体である「ミュージック・シェアリング」は、ヴァイオリニストの五嶋みどり理事長が率いるNPO法人で、障がいを持つ子どものための楽器指導支援プログラムを実施しています。どんな「想い」で始めた活動なのか、そして子どもたちの反応や変化はどのようなものか。五嶋みどり理事長、五嶋節副理事長、指導にあたっている森下保子先生にその様子を伺いました。

聞き手:山本美芽

 

子どもたちに音楽を届ける重要性

 

―五嶋みどりさんは、11歳の時にアメリカでヴァイオリニストとしてデビューされています。演奏活動を続ける中で、普通のコンサートだけでなく学校への訪問演奏をしたいと思うようになったとのことですが、それはなぜでしょうか。

 

五嶋みどり:私が10代のころにアメリカで共演した、先輩の音楽家たちと会話をしていると、いつも「音楽の授業数が減っているよね」ということが話題にあがっていました。私が当時通っていたアメリカの小学校、中学校は音楽の授業がありましたが、今ニューヨークや他の州で、音楽の授業がない学校の方が多くなっている現状を知りました。私は音楽を通じていろいろなことを学んだことで、世界のドアが開いていきました。なんとかして音楽の授業が減っていく傾向を食い止めて、反転させられないか。何かがしたい。その想いが最初の活動の形につながりました。

 

-最初の頃は、学校や病院を訪れて演奏するコンサートを行っていたそうですね。

 

五嶋みどり:はい。最初はピアニストと一緒に学校や病院を訪れていましたが、そういった場所で演奏することが好きなので、現在でも続けています。学校や病院でのコンサートでは、子どもたちや患者さん、入所者の方と一緒に私も“音楽”に救われる、そんな一体感があり、新しい発見もあります。

 

-そうだったんですね。その後音楽仲間の方と一緒に活動を始められますが、そのきっかけは何だったのでしょうか。

 

五嶋みどり:活動に充実感を覚えながらも、自分ひとりでできることには限界があると痛感したことがきっかけです。同じ想いを持つ同志たちとともに組織として活動できないかと考え、1992年にアメリカで設立したのが「みどり教育財団」です。最初は学校などを訪問して演奏する、いわゆる“アウトリーチ”としての形で活動を行っていました。
活動を続ける中で、演奏を届けるだけではまだまだ子どもの環境に音楽が足りない、そしてそういった問題がどんどん深刻化している、ということも分かってきました。例えば日本では、素晴らしい音楽の授業があって、リコーダーや鍵盤ハーモニカなども義務教育で学ぶことができ、それで充分ではないかと思われがちです。しかし、生の音楽に触れて、モーツァルトやベートーヴェンという名前だけでなく「どんな曲を書いた、どんな人だったのか」を知り、自分で楽器を持って演奏する、そうした体験がもっと必要なのです。
こうした想いのもと活動を続けていた「みどり教育財団」の日本オフィスとして発足したのが、現在の「ミュージック・シェアリング」です。

 

学校や施設でのヴァイオリン演奏体験

 

 

―「ミュージック・シェアリング」の現在の具体的な活動内容について聞かせてください。特別支援学校では、子どもたちにどのように楽器体験をしてもらっているのでしょうか。

 

森下保子:楽器体験は、特別支援学校などにヴァイオリンをある程度まとまった数を貸与して、毎週の音楽の時間などに講師を派遣し、演奏体験をしてもらう、というプログラムです。ヴァイオリンは、プロが演奏すると凄まじい表現力を持つ楽器ですが、はじめて触れる人にとっては、ひとつの音をずっと伸ばしているだけでも合奏に参加できる、そんな懐の広さもある楽器です。
例えばある支援学校では分数サイズ(※子ども用の小さなサイズの楽器)も含め、ヴァイオリンは20本、チェロは2本ほどミュージック・シェアリング側で用意したものをずっと学校に置いています。1週間に1度の授業で、保管してある楽器を子どもたちが取りに行くところから始まり、私たち指導者が肩当てや調弦など楽器の準備を行って、子どもたちに渡します。そして楽器演奏を体験し、片付けるところまでを子どもたちと一緒に行います。
毎回授業の最後には、子どもたちが“ひとつの音を弾く”というかたちで私たちと合奏できる『ハンガリー舞曲 第5番』を弾いて終わります。学校によっては4ヶ月か5ヶ月かけて、ドレミファソを使った曲が弾けるようになり、最後に五嶋みどり理事長とのコンサートで演奏することを目標にしている学校もあります。

 

―体が思うように動かせない子どもたちも、ヴァイオリンの演奏体験はできるのでしょうか?

 

森下保子:楽器をベッドに置いたり、肩で挟むのが難しければ、テーブルの上に楽器を置いて1本の弦を弾く。ベッドの横でチェロを立てて、指導者が逆立ちのような体制になって楽器を持つこともあります。弦楽器は楽器自体が響くので、骨を伝って体で音を感じられるので、楽器に触れ、自分で音を出そうと試みる中で、子どもたちは生き生きとした表情を見せ始めます。そんな時、支援学校の先生方が「生徒たちのこんな表情を見たことがない。表情がいつもと全然違う!」とおっしゃるのです。私たちも弾いた後の生徒たちの笑顔にエネルギーをもらっています。

 

音に導かれて成長する

 

―ヴァイオリンの演奏体験で、子どもたちにどんな変化が起きるのでしょうか。

 

五嶋節:まず、支援学校の子どもたちは、毎回のプログラムを経験するうちに、楽器を大切にするようになります。楽器のケースを開けて、指導者から手渡されて楽器に触れる。そしてまたケースにしまって倉庫に持っていく。その時子どもたちが「楽器は自分の大切なもの」という顔をしているのです。自分の子どもを抱えるような表情で楽器を片付けている生徒さんが多いですね。他には、フォークを持てなかった子が、ヴァイオリンの弓を持って弾こうとしているうちに、フォークを持てるようになった、ということもありました。

 

―ヴァイオリンは、弾き方によって音の高さも音色も、無限といってもいいぐらい多彩な音が出ます。音楽が面白い、もっと音を出したいという気持ちが、子どもたちの眠っていた可能性を引き出すのですね。

 

五嶋みどり:支援学校でのプログラムでは、まずは楽器について知ることと、どうやったらどんな音が出るのかを教えます。音楽は、つらいときに慰められたり、楽しい時にもっと楽しくしてくれたり、興奮しているときには少しおだやかにさせてくれるような力があります。また、実際に鳴っている音と作曲家の書いた楽譜がどのように一致するのか、楽器を使って出せる音がどんな意味を持っているのかを考え、いずれは自分の世界を持ち、そして世界とつながりを持つ、といったことが可能になります。
「音を出したい」という気持ちから、自分の世界が生まれ、まず自分自身と向き合います。それから、周りの人と音楽を共通言語としてコミュニケーションがとれるようになります。ヴァイオリンからどんな音を出そうかと想像し、創造することがコミュニケーションに直結するのです。

 

―自分で音楽を演奏することに、どのような意味があるとお考えでしょうか。また、子どもたちのどのような力が育つとお考えでしょうか。

 

五嶋みどり:プロが演奏するから音楽に意味があるわけではなく、プロではなくても、音楽を自分でつくりあげる、自分で表現したい音を探る、その行為自体に意味があるのだと思います。上手く弾けることが大事、ということではなく「豊かな響きで振動する楽器に自ら触れる」、「皆で楽器を演奏しながらその音に包まれる」という体験を通して、想像力やクリエイティビティが養われていくのだと思います。
複雑な世の中では、『自分の世界』と『自分がいられる世界』を持つことは大切です。音楽は、子どもたちの様々な環境下において、彼らの助けになることがあることを知ってもらえると嬉しいです。

 

ミュージック・シェアリングの活動は、楽器の演奏を通して子どもたちに「コミュニケーション力」、「クリエイティビティ」、「想像力」、「ものを大事にする気持ち」が芽生えることを教えてくれます。そして何より、子どもたちが音楽によって生き生きとする活動が続くことを願ってやみません。

 

団体概要
<団体名> 認定NPO法人ミュージック・シェアリング
<URL> http://www.musicsharing.jp/
<代表者> 理事長:五嶋みどり
<活動概要>
1992年より「みどり教育財団東京オフィス」として活動を開始し、文化・芸術の振興と子どもの健全育成を目的として活動してきました。2002年に特定非営利活動(NPO)法人ミュージック・シェアリングへ組織変更し、近年では高齢者の方々も視野に入れて更なるプログラムの充実を図っています。音楽を通して人々のクリエイティビティを高め続けるだけでなく、音楽家の社会貢献活動に対する理解を深める場として、常に時代を先取りした音楽プログラムを実施しています。コンサート情報  ▶第14回ICEP活動報告コンサート2023

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