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山田和樹 スペシャル・インタビュー

東日本大震災の2011年からスタートし、今回で7回目となる小・中・高校生のための「第九」チャリティ・コンサート。今年は指揮者 山田和樹さんの熱い呼びかけに応えて、仙台フィルハーモニー管弦楽団と読売日本交響楽団がスペシャル合同オーケストラを結成し、豪華なコラボレーションが実現します。山田さんのこのコンサートにかける思いや、ご自身の音楽との関わりを伺いました。

聞き手:ソニー音楽財団/文:油納将志

練習が嫌で嫌でしかたがなかった小学生時代

山田和樹 スペシャル・インタビュー

この度開催される『小・中・高校生のための「第九」チャリティ・コンサート』ですが、指揮をされる山田さんご自身はどんな小・中・高校生だったんでしょうか?

ぼくは両親ともに音楽家ではなく、普通の家庭で育ちました。父親の転勤の都合で神奈川から名古屋に引っ越したんですが、そこでたまたま入った幼稚園が木下式音感教育法を採用していて、カリキュラムの中に音楽がたくさん入っていたので自然と音楽と出会ったという感じでしょうか。ですので、転勤がなければ音楽家になっていなかったかもしれません(笑)。ピアノは弾くことは好きだったんですが、練習が嫌で嫌で……。練習せずにレッスンに行って怒られたり(笑)。

それは意外ですね!

練習嫌いは小学生になってもあまり変わりませんでした。歌うことや自分でピアノを弾くのは好きでも、他の人の演奏を聴いていると寝てしまったり……。そんな中、4年生か5年生の発表会で暗譜が飛んでしまい、止まってしまったことがありまして。それで、「さすがにこれではいけない」と思ったことが、思い返せば自分の音楽のスタートだったかもしれません。それで頑張らなきゃと思ったのと同時に本格的な作曲家の作品に出会うことができて、ようやくピアノが楽しくなってきました。ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン……。男の子は好きになったらそこからが早いんですよね。のめり込んで毎日何時間も練習するようになったのです。

ベートーヴェンはかなり小さい頃から弾いていたんでしょうか?

そうですね。6年生の時にピアノの発表会でベートーヴェンのソナタを弾いたのですが、先生が模範で弾いてくれたのがすごく衝撃的で。こんなにコントラストがある音楽があるのか、こんなに豹変するのか、とビックリしたんです。最初は優しそうな雰囲気の曲なのに途中から激しくなって……同じ人間が書いたのにこの変化が1曲の中でなんでこんな起こるんだろう、と子どもながらにショックで、それがすごくカッコイイと思ったんです。熱心に練習するようになって、その延長線上で入った合唱団で指揮をやらせてもらったりもしました。高校は普通科でしたが吹奏楽部に入って、そこで指揮もしましたね。

最初に指揮した曲をおぼえていますか?

「蛍の光」でした。それはそれで印象的な思い出ですが、小学校1年生の時に家にあったレコードをかけてソファの上で手を振って真似をしていたのは、ビゼーのカルメン前奏曲。男の子に「大きくなったらなりたい仕事」のアンケートをとると、総理大臣、船長、野球の監督と同じように指揮者も挙がっているそうですよ。ご多分に漏れず、ぼくもほかの男の子と同じように指揮者への憧れはありました。

「人生を棒に振る」選択につながった発表会

山田和樹 スペシャル・インタビュー

プロの音楽家を目指そうと意識したのはいつ頃だったのでしょうか?

漠然と音楽家になれたならいいな、と憧れてはいたんですが、同時にそんなに簡単になれるものではないというのもわかっていました。自分のこんな練習量ではなれるわけがない、と。こんな才能ではなれないだろうとも考えていました。ですので、職業にすることはまったく考えていなかったんです。でも、音楽家の道には進まない、となったときに、ほかに自分にはなにがあるんだ? 大学もどこに行けば良いんだ? 文系にいくのか理系にいくのか?そんな風にギリギリまで悩んでいましたね。そんな悶々とする中、高校2年の終わりの時に小さいころからお世話になっている音感教育の先生から、発表会の最後のカーテンコールでオーケストラの指揮を振って欲しいと言っていただいたんです。それが先ほどの「蛍の光」で、僕の人生を変えることになりました。編成は小さいけれどもプロのオーケストラの方々だったので、やっぱり反応も違うし、そこでの経験で「指揮者になりたい」という思いが強くなり、指揮棒を振る人生を選ぶことにしたんです。人生を棒に振る選択でしたね(笑)。

うまい(笑)!

でも、やはりそんな簡単な話ではありませんでした。ずっとなりたいけど、なるための本格的な努力はしていなかったわけですから、残り1年で音大受験は無謀なことでした。オーケストラの演奏会で指揮した後も1〜2か月はずっと考えて悩んでいました。

日本が世界に誇る若手指揮者にもそんな時期があったんですね。そんな山田さんにとって「第九」とはどんな作品ですか?

子どもの頃からあのメロディーはもちろん知っていました。カラヤンのベートーヴェン全集のレコードが自宅にあって、「第九」というのはあのメロディーだ、聴いてみようと思って聴き始めたんですけど、待てど暮らせどあの“メロディー”が出てこないんですよね。どうしてだろうと思って、ここかな? ここかな? とレコードの針を動かしていたら、あのメロディーが出てきて。でも、すぐにあのメロディーは終わってしまう。とてつもなく長い曲のちょっとの部分なんだなぁ、あのテーマが何度も出てくれば楽しいのになぁと思って、実はちゃんと聴いていませんでした(笑)。しっかりと向き合って聴いたのはちょうど将来を悩んでいた高校生の時です。

小・中・高校生に「第九」をどういう風に聴いてほしいですか?

こういう風に聴いてほしい、って言ってしまうとそのイメージにとらわれてしまうので、自由に聴いてもらえたらと思います。小学生の頃の僕のように、「あのテーマを期待しているのにまだ出てこないじゃないか、長いな!」、「合唱が早く歌いださないかな、まだ歌わないのかな?」とか、自由に聴いて思った感想をそのまま聞いてみたいですね。長いということはそれだけ壮大だということなので、その大きさを感じてもらえればそれだけでも良いですし、まったく知らなくても有名なメロディー以外にもこういうメロディーがあるんだ、こんな素敵なパートがあるんだと興味持ってもらえたらうれしいです。早く4楽章になってほしい、と思われる大人の方も多いですけれど、1楽章、2楽章、3楽章とあるからこそ、4楽章も生きるので、ぜひ最初からじっくり聴いていただけたらと思います。

特別なファンタジーが生まれるコラボレーション

山田和樹 スペシャル・インタビュー

今回は仙台フィルハーモニー管弦楽団と読売日本交響楽団による「復興支援のためのスペシャル合同オーケストラ」の公演となります。

仙台フィルとは5年間にわたってミュージックパートナーというタイトルをいただきまして、年1回指揮をさせてもらっています。僕にとってすごく幸せな時間を過ごさせてもらったオーケストラですね。就任したのは東日本大震災が起こった翌年の2012年で、被災地の学校に行ったりして何かできることはないかなと思っていました。でも、被災地を訪問すると、逆にぼくの方がエネルギーをもらってしまう。仙台フィルの演奏者の方々もそうですけど、被災地の人たちは強い。行くたびに人間の強さを感じます。ちょっと時間を見つけては車で海岸沿いの方に連れて行ってもらったりとか、特別養護学校などにも行きました。すべて思い出せるほど、ぼくの中での得難い経験になっています。ただ、大震災があったから仙台フィルと、というわけではなく、その前から良い関係だったところに大震災が起きてさらに深い関係になったという感じです。

一方の読響とはどのように関わられているのでしょうか?

読響さんとも良い関係が今までもあって、2018年度から首席客演指揮者というタイトルをいただくことになっています。そういう繋がりのあるふたつのオーケストラが合同の演奏会で、しかもプログラムも「第九」ということでどうなることか。「第九」というのは日本でもこれだけ有名で、オーケストラは熟知しています。そこで、ふたつのオーケストラの合同だからこそ生まれる化学反応みたいものを合唱の方々、ソリストの方々の力もいただきながら起こせたら、と思っています

最後にコンサートに来られる、また関心を持っている小・中・高校生にメッセージをいただけますか?

「第九」自体に興味を持ってもらって来てもらっても良いですし、生のオーケストラはどうなんだろうという興味でも良いですし、東日本大震災の復興支援という気持ちでもいいので、ぜひ足を運んでいただけたらうれしいですね。ぼくとしては、演奏会はひとつの出会いだと思っています。ホールで生のオーケストラと出会う、指揮者と出会う、ソリストと出会うとか。そういう意味でコンサートとは出会う場なんだと思います。ハッキリ言って、クラシックはそんなにわかりやすいものではありません。でも、「第九」はその中でもわかりやすい部類に入る曲。苦悩から歓喜へとよく言われますけど、最初は混沌としたような世界から始まって戦いがあって、それが最後には報われる。ハッピーエンドで人類の平等や平和が歌われるんです。ベートーヴェンの最高傑作である「第九」は、もはやクラシック音楽という枠を超えて、一人ひとりの心に直接訴えかけるドラマを持っている音楽。その「第九」をふたつのオーケストラの合同演奏により、特別なファンタジーを生み出すことができればと思っています。今、その瞬間しか生まれない音楽を、ぜひ体感していただきたいです。オペラシティでお待ちしています!

仙台フィル×読響 スペシャル合同オーケストラによる 小・中・高校生のための「第九」チャリティ・コンサート

山田 和樹 Kazuki Yamada (Conductor)

2009年第51回ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝。ほどなくBBC交響楽団を指揮してヨーロッパ・デビュー。同年パリ管弦楽団を指揮して以来、破竹の勢いで活躍の場を広げている。

2016/2017シーズンから、モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団芸術監督兼音楽監督に就任。スイス・ロマンド管弦楽団首席客演指揮者、日本フィルハーモニー交響楽団正指揮者、東京混声合唱団音楽監督兼理事長などを務めている。2012年から2017年まで仙台フィルハーモニー管弦楽団のミュージックパートナーを務め、2018年4月からは読売日本交響楽団の首席客演指揮者に就任予定。

2012年渡邉曉雄音楽基金音楽賞、齋藤秀雄メモリアル基金賞、2016年には、第67回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞した。

これまでに、ドレスデン国立歌劇場管、パリ管、フィルハーモニア管、ベルリン放送響、バーミンガム市響、サンクトペテルブルグ・フィル、チェコ・フィルなど各地の主要オーケストラでの客演を重ねている。

メディアへの出演も多く、音楽を広く深く愉しもうとする姿勢は多くの共感を集めている。

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